第92回東京国際芸術協会新人演奏会オーディション@タワーホール船堀・小ホール【ヴァイオリン&弦楽器部門】2025/5/24

第92回東京国際芸術協会主催・新人演奏会オーディションが、タワーホール船堀・小ホールにて開催され、審査員として務めさせていただきました。まずは、運営にあたられたスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。

東京国際芸術協会といえば、全日本ジュニアクラシック音楽コンクールで、私の生徒たちが日頃より大変お世話になっておりますが、今回は18歳から38歳までの、学生というよりは大人を対象としたオーディションで、いつもとは一味違う審査経験となりました。

タワーホール船堀・小ホールについて、少々辛口な感想になりますが、正直なところ音響に関しては「最高ランク」とまでは言えない印象を受けました。舞台上から聴く限り、やや籠もったように響き、音のクリアさに欠ける部分がありました。響かないわけではないのですが、細かなニュアンスが伝わりづらい印象で、もし天井にもう少し工夫された音響板があれば、状況も変わるのではと思います。ただ、ホール全体としては清潔感があり、とても美しい会場であることには間違いなく、その点では大変好感が持てました。

参加者は約15名。レヴェルには幅がありましたが、コンクールというよりはオーディション形式だったため、審査はそこまで厳格ではない印象でした。何より、自分の生徒が関わっていない場での審査は、少し肩の力を抜いて、純粋に演奏を聴くことができたように思います。

今回の審査を通じて、3つの観点で印象に残ったことをここに記しておきます。緊張との向き合い方、ソナタという形式の審査、そしてバロック様式の選曲について――公の講評用紙には書けないような内容ですが、審査員の目線として残しておきたいと思います。


【1】緊張と「気合い」の関係について

緊張のあまり、「気合い」で乗り切ろうとする方が何人か見受けられました。もちろん、幼稚園〜小学校3年生くらいまでは、その気合いが演奏に現れること自体が感動的で、審査員の心を打つこともあります。しかし、小4以降、中高生、そして大人になるにつれては、その「気合い」があからさまに見える演奏は、かえって緊張を露呈してしまい、評価が難しくなります。

演奏に余裕を見せる――たとえ緊張していても、それを感じさせない演奏はとても魅力的ですし、よく褒められることもあるでしょう。気合いをフレーズごとに丁寧にコントロールする姿勢が、大人の演奏につながり、「ファーストクラスのスタートライン」に立てる最低条件なのかもしれません。

逆に言えば、「気合い入ってます!」というのが見えてしまう演奏は、そのスタートラインにすら立てていないとも言えるかもしれません。小4以上の生徒さんたちには、ぜひこの点を意識してもらいたいです。(※本日はわたしは合格点を全員お渡しさせて頂きましたが)


【2】ヴァイオリン・ソナタの審査について

大人のオーディションになると、ヴァイオリン協奏曲よりもソナタを選ぶ方が多くなります。ヴァイオリン・ソナタは基本的に「ピアノとヴァイオリンのための作品」であり、両者が同格のパートナーであることが前提です。ここで審査員としていつも迷うのが、ピアニストを「伴奏者」として捉えるのか、それとも同じ審査対象とするべきか、という点です。

オーディションのルール上、特に明確な決まりがあるわけではなく、「全体的な印象」に点数をつけることが求められます。通常は舞台前面で演奏するソリスト(今回はヴァイオリニスト)が審査対象になりますが、それが果たして正しいのか、いつも悩みます。

ここで議論を深めるつもりはありませんが、ソナタを選ばれる場合、ピアニストの皆様にもこのような背景を理解していただけたら嬉しいなと思いました。


【3】バロック作品の選曲について

今回、バロック作品を演奏する参加者も何名かいらっしゃいました。もしかしたら、なにかのコンクールや試験の練習で参加されているのかもしれません。それで、特に学生やバロックにこだわりを持つ方の中には、「バロックはこう弾くべきだ」という演奏スタイル(ヴィブラートを減らす・無くす等)を徹底されている方がいます。

もちろんそれを否定するものではありませんし、私自身もバロック作品を演奏するときは奏法を変えることがあります。ただ、オーディションやコンクールの場においては、多少の「差別化」や「驚き」がある方が、私は好ましく感じます。

教科書的なスタイルを突き詰めるのも自由ですが、それだけにとらわれてしまうと、音楽界が発展しづらくなるのではとも感じます。若い音楽家には、ぜひ「勇気を持って自由な演奏」に挑戦してほしいと願っています。


今回は、益田みどり先生、和田和子先生とご一緒させていただきました。私はこのオーディションへの参加が初めてでしたので、いろいろとお世話になりました。

和田先生は今年3月まで、大宮光陵高校のヴァイオリン科の先生を務められており、私のリサイタルで共演している李玲花先生や安藤梨乃先生の高校時代のご指導者でもありました。また、伊東先生ともご縁があるようで、昔のお話を伺うことができました。

次回の審査機会も、楽しみにしております!

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Kunito Int'l String School!

クニトInt'lストリングスクール ヴァイオリン教室/バイオリン教室 3度の飯より教えることが大好きな講師が、アメリカ大学で行われている国際感覚豊かなレッスンを行ってます!

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