レッスンで賛否わかれる意見シリーズ⑥「理想の運指(フィンガリング)は表現豊かな運指か?より簡単な運指か?」

ヴァイオリンには、右手のアップダウンを決める弓順(ボウイング)、そして左手の運指(フィンガリング)という演奏前に決めておかなくてはならない決め事があります。

この弓順と運指は、一歩間違うと、今後の音楽人生を左右する程の威力があると言っても過言でないくらい大切な基本の決め事です。

また、これら弓順にも運指にも、答えはなく、その奏者によって個性溢れる弓順と指順が決められます。

運指や弓順は、その奏者のプライドや人生を語る

ヴァイオリニストの先生方が運指や弓順を教えるときは、流派が違うと言っても過言でないくらい、皆さん違う答えを持っています。

というのも、その先生の師匠から受け継いだ運指や指順に、更にその先生のヴァイオリニストとしての経験が含まれているからです。
ある意味弓順も指順も人生を語るものです。

それを生徒が無視しようものなら、いくら柔軟な先生でも自分と先生の二人を馬鹿にしたようなものなので、とても不快に思われます。
よく、二人以上の先生にレッスンを習う上での一番のアクシデントにつながることが多いのもこの運指と弓順なのです。

また、ヴァイオリニストにとって、弓順や運指はとても大切な秘密の技術であり能力なので、それを公開しようものなら、ヴァイオリニストとして素っ裸になってしまうくらいの威力はあります。笑

しっかりしたヴァイオリニスト達は、弓順も運指もプライドを持っているのです。

譜面に書いてる運指は参考程度に・・

ある楽譜に、私の師匠であるキャロル先生の師匠「ギンゴールド氏」によって書かれていた運指と弓順がありました。

キャロル先生に私が「あの楽譜の運指は本当にギンゴールドが書いたの?全然、キャロル先生の運指に似てないんだけど・・」なんて聞くと、キャロル先生は「ははは!ギンゴールドが彼の運指を書くわけ無いじゃない。私がギンゴールドに教えてもらった運指は全然違ったわ。きっと弟子の○○が酔っ払いながら書いたものよ、そんなものが世の中に出回り真面目にその運指をみんな取り組んでいるなんてね」と笑われました。

そうなんです。偉大なヴァイオリニストが世間に自分の運指を晒しだすわけがないのです。
だから、本当の伝えられた運指は、先生たちは大事に秘めていて、ここぞ!という時に生徒達にレッスンで内緒で教えるわけです。

運指は流行り廃りがある

そこで、どうやってヴァイオリニストたちは、運指を決めるのか。経験からではあるものの、迷うことは多々あります。

そこで、二種類の運指法があります。表現豊かな運指とより簡単な運指です。

例えば、ヴァイオリンのテクニックを簡単に言うと、同じ音でも指をおさえない開放弦で弾くか、指を弦におさえて弾くのかです。

簡単に弾けるのは指をおさえない開放弦の場合が多く、移弦を伴う場合はおさえて弾いたほうが良い場合があります。
逆に、指をおさえて弾くと、ヴィブラートがかけられ響くことや、音量をおさえたい時に開放弦のように響かないで済むなど効果があります。
しかし移弦を伴う場合は、指を弦におさえてしまうとテクニックが簡単になり見た目が面白くなくなり表現力が失われることもあります。

しかしながら、作曲者自身が記した場合を除き、運指には流行り廃りがあるのも事実です。

例えば、クライスラーやハイフェッツの時代は、とにかく難易度高いハイポジション(高いポジション)での演奏が好まれました。

ハイポジションのほうが表現も豊かになりますし、テクニックを魅せるためでもあるからでしょう
また、ハイポジションのほうが、あまい音が出しやすいときもあります。
他に、ハイポジションが有利な運指は、ポジション移動のスライド音(うにょ)の魅力を発揮できるという理由があるかと思います。

一方現在は、難易度が低い低いポジションで弾くほうが、確実により綺麗に音が出せ、丁寧な演奏が出来るとされております。
コンクールなどでも、難しいポジションを使わなくても、綺麗に音を出せるほうが評価されることが多いように感じます。

まとめ

つまり理想の運指として、現在はより簡単な運指が好まれ、一昔前では、複雑で表現豊かな運指が好まれました。

私個人の意見では、一昔前の運指を好みますが、基本生徒にはより簡単な運指を薦めます。そして、表現豊かなフレーズが出てきた時に、生徒に一昔前のハイフェッツグリッサンドなどを紹介して、好まれれば、表現力豊かな運指を薦めます。

結論として一番大事なことは、柔軟性を持ち、臨機応変に使い分けることが大事です。変更に変更を重ね、演奏会までにしっかり自分の個性と意見を言える運指が、最高の理想の運指でないかなと思います。

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